やっぱりおおかみ

絵本 やっぱりおおかみ

絵本 やっぱりおおかみの表紙です

絵本 やっぱりおおかみ
◆年齢◆
読んであげるなら4、5才から。
自分で読むなら大人まで。

◆ジャンル◆
◆ファンタジー絵本

◆シチュエーション◆
◆ともだちとあそぼ!絵本


佐々木マキ作・絵  福音館書店

初版年月日:1977年04月01日 ISBNコード:4-8340-0520-8

32ページ 27X20cm 定価840円(本体800円 + 税40円)

通常版はこちら!  定価840円(本体800円 + 税40円)
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この絵本は、佐々木マキさんの初めての作品(月刊こどものとも 211号 1973年10月号が初版)で、およそ30年以上ロングセラーを続けていることになります。

いまだに、ユニーク、哲学的(この形容は間違っています)という形容がそのまま通用しているし、確かに絵本の可能性を大きく拡げた作品に違いないですね。

孤独体験、個、私とは何か
アイデンティティだとか、私とは何者か、というようなことは文学の永遠の題材です。それは捨て子物語や出生を求める旅物語などたくさんあります。この絵本も一面ではその系列に属しているようです。
では、幼児に「私とは何か」という問題はあるのでしょうか。
そもそも本源的に、「自己・私」が成立するためには、母体から分離と母子一体からの分離があります。これこそ、「自己・私」の始まりです。幼児は、母子分離と回帰の矛盾のなか(この絵本の扉絵の乳母車が象徴的)にあり、そのことを経て、「私」を生み出す、その出発点にいます。原体験といわれるものです。このように人間は分離という「欠落」から出発しており、その回復を求めてたくさんの「物語」を必要としています。このことは幼児期も、思春期も、大人期も変わりません。問題はその「物語」がいかなる形式で描かれているかにあります。
主人公「おおかみ」が影であること
影であることによって、主人公の孤独をくっきり表しています。それは他者からすると、不気味な存在であり、誰からも近寄りがたくさせます。孤独であることは、逆に、誰とも違う自己存在の優位性を自分で確認することになります。
「おおかみは もう いないと 
 みんな おもってますが
 ほんとうは いっぴきだけ
 いきのこって いたのです」
表現法からいえば、昔ばなしの主人公と同じく、孤立性を描くことで、読者にとってみれば、「これは私だ」と、自己同一化(感情移入)がしやすいことになります。

旅(さすらう)
おおかみが、うさぎ、やぎ、ぶた、鹿、牛の町をさすらうのは、仲間をさがす旅だったのに、差異・孤独の確認のための旅になってしまいます。でも、その旅があったからこそ、自己の優位性を確認でき、孤独の耐性ができたとも言えます。

「け」を三回、について
この絵本には、おおかみが、漫画のふきだしのごとく「け」とだけ表現する場面が三カ所あります。実際に声に出したかどうかは微妙ですが、この「け」を、それぞれ、どのように解釈するかが、とても面白いところです。とくに、飛行船が飛んでいってしまう三つ目の「け」はいかようにもとれます。
『飛行船にも見放されたか、け!』
なのか、
『おおかみとして生きていくしかないよ、「け」だね』
なのでしょうか??
めくると次ぎに、原文には、こういう思いがあります。
「そうおもうと なんだかふしぎに 
 ゆかいな きもちに なってきました」

絵本の可能性(斬新さ)
おそらく多くの大人たちが驚いた(今も)のは、「幼児向き」として、この絵本が登場したことにあると思います。30年前の絵本の世界は、いわば砂糖菓子のようなもので、甘くさえあればよかったのです。幼児は清らかで、こういった心情はないし、あって欲しくなかったのです。いわゆる「童心主義」の時代がまだ続いていました。もう一方の考え方は、子どもは訓練するべき存在で、だから「しつけ絵本」と「教訓」が求められていました。児童文学の方ではすでに、生き生きとした子どもの本が主流となりつつありましたが、絵本は幼児向きとあって、まだそうでもなかったのです。こうした大人の心配をよそに、この絵本は幼児にも受け入れられました。だからこそ今でもロングセラーとなっているのです。

絵本の可能性(1)
「私とはなにか」にも書いたように、その内容は、物語や児童文学ではめずらしいことではありませんでした。いやむしろ不可欠のものです。
この絵本が画期的なのは、そのことを「絵」で語ったからです。幼児に伝えうる表現形式で語ったのです。そうすると、どうなるか、つまり、「絵」で考え、具体的な感覚や感情で考える幼児に直截に伝わることになったのです。なかでも、「け」で表現された「孤立・孤独・ひとりぼっち」の感覚が、もっとも大きく作用したのではないでしょうか。
このことは、絵本という表現形式が、人間にとって根源性を、(今までは、「物語、神話、文学」などでしか語れなかったことが)語ることができることの可能性を示したことになりました。

絵本の可能性(2)
この絵本は、幼児を越えて、小学生から大人にも広く受け入れられました。これは可能性(1)の当然な帰結でもありました。根源性は年齢を問わないのですから。
ここに、絵本は幼児のためだけにあるのではなく、普遍的な芸術の諸問題を表現できる可能性をもつことが認知されたのです。そして、現在、子どもや幼児に配慮のない絵本、大人固有の諸問題を扱った、人間の根源性とは関係のない絵本が多種登場することになりました。このことは自体は、絵本の多様化として大いに歓迎されるべきことです。
してみると、絵本には、(a)子ども固有のもの、(b)人間の根源性に向き合うもの、(c)大人固有のものとの三種類にわけることができます。
今子どもの世界に大きな混乱を起こしているのは、(c)の絵本です。大人が子ども時代をノスタルジーで語るのは、大人固有のものですね。あるいは大人が無前提に「ともだち」を良しとするのは、大人の観念であって、この絵本「やっぱりおおかみ」のもつ、「仲間を求めて」さすらう根源性とは、まるで違っています。
大事なことは、(c)の絵本を子どもの世界にもちこまず、それはそれとして楽しむことではないでしょうか。





内容紹介です

*注 《》()内の文は、原文にはありません。『二重括弧』「括弧」内が、絵本原文にある文です。

『おおかみは もう いないと 
 みんな おもってますが
 ほんとうは いっぴきだけ
 いきのこって いたのです。
 こどもの おおかみでした。
 ひとりぽっちの おおかみは
 なかまを さがして
 まいにち うろついています』

《うさぎの町をうろつくおおかみ》
(おおかみを見て 逃げ出すうさぎたち)

「け」
(とおおかみはいいました)

《やぎの町にもやってきました》
(敬虔なやぎたちは教会へ)

《ぶたの国のバザールでは》
(家族や仲間、すごく賑やか、おおかみは羨ましそう。
 おおかみをみるとそそくさと立ち去ります)

け

「け」
(とおおかみはいいました)

《鹿のくにの住人は、森林公園で楽しんでいます》
(おおかみは、もしかして、鹿になれたら…と考えます)

(おおかみは、遊園地にやってきました。誰も乗っていないメリーゴーランドがあるだけ。おおかみはつぶやきます。
「おれに にたこは いないかな」)

《牛の町にやってきたのは、夕方。》
(町には誰ひとり歩いていません。窓から覗いてみると、夕食時、一家団欒)

牛たちの一家団欒

《夜になって、おおかみがやってきたのは墓地》
「おれに にたこは いないんだ」
(おおかみが墓地に寝転がっていると、幽霊が。でも幽霊でさえ仲間といっしょ)

《ビルの屋上、飛行船が繋がれています》
『やっぱり おれは おおかみだもんな。
 おおかみとして いきるしかないよ』
(飛行船は誰も乗せずに飛んでいきました)

「け」
(とおおかみはいいました)

《おおかみは町全体を眺めました》
「そうおもうと なんだかふしぎに 
 ゆかいな きもちに なってきました」





読み聞かせのポイント

絵から感覚的に受け取るものがほとんどの絵本です。
ですから、あまり言葉を必要としません。
というより言葉がじゃまにならないように読んであげて、場面をゆっくり見せてあげましょう。
それで十分伝わります。

絵本 やっぱりおおかみ
◆年齢◆
読んであげるなら4、5才から。
自分で読むなら大人まで。

◆ジャンル◆
◆ファンタジー絵本

◆シチュエーション◆
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佐々木マキ作・絵  福音館書店

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Comment on "やっぱりおおかみ"

懐かしい本を思い出させてくれて、ありがとうございました。児童文学ばかりで絵本とはあまりつきあいのなかった子供時代、いまだに印象に残っている数少ない絵本のひとつがこれでした。子供心にショックでした。「け」としかセリフのないおおかみ、顔のはっきりしない姿も異様だったし、最後に独りでいることが愉快に感じられるのも不思議で・・・。
大人になり、たまたま洋書絵本の仕事に関わった20代の頃、偶然この絵本に再会したことがあります。このおおかみの気持ちを難なく理解できる自分に、我ながら歳をとったなと思いました(笑)。もし少女時代の私がそこに一緒にいたなら、説明してあげられたのにとさえ思いました。
少女時代の私の代わりに、娘にこの本を見せ、自分が感じたことなど話してあげたいと思いました。

  •   MOLLY
  • 2006年10月25日 16:48

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