絵本 つるにょうぼう

絵本 つるにょうぼう

絵本 つるにょうぼうの表紙です

絵本 つるにょうぼう
◆年齢◆
読み聞かせは6才以上
自分で読む場合は小学生低学年向き

◆ジャンル◆
◆むかしばなし絵本

◆シチュエーション◆
◆おやすみの前に絵本



矢川澄子 再話 赤羽末吉 絵 福音館書店

初版年月日:1979年10月25日 ISBNコード:4-8340-0757-X

32ページ 26X25cm 定価1260円(本体1200円+税60円)


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この絵本の魅力は、本当にたくさんあります。

ここでは数点に絞って解説します。
〈・〉絵について
(1)ゆき
雪が描かれている場面のうち、降っているのが2場面、積もっているところが2場面描かれています。
まず、扉をあけると、いきなり吹雪の場面があります。
右ページでは、鶴がつばさに矢を受けて苦しんでいます。この場面は、「よ平が帰りを急いでいますと、ふいにばさばさという音」がしたので、なんだろうと、その音の方へ、近づいていこうとするところですね。たいへんな吹雪で、まったく視野がききませんから、近づいてくる人はまだ薄い影のようにしかみえません。それがよ平であることは、文章のほうで分かります。
めくると、見開きの大きな画面の真ん中に、雪に埋もれた小さな家があります。「ほとほと」と戸をたたくものがあるので、戸口をちょうど開けたところです。びっくりするよ平に、「たえいるような、あえかな声で」『女房にしてくださいまし』といいながら、でも、今にも家に入ろうとするばかりに、まえかがみの娘がいます。娘には是非にも、そうしなくてはならない訳があったのでしょう。
よ平はとまどいながらも、それを感じとったのでしょうね。
「そっと手をさしのべ、むすめをなかへひきいれました」
そのとき、降っている雪は、吹雪ではなく、大きな綿雪のような暖かそうな雪です。
この絵本の画家、赤羽末吉さんは、日本の雪は、たっぷりと水分を含んでいるのが特徴だとエッセイにお書きになっていました。赤羽さんは、そんな日本の雪を描きながら、登場人物たちの心情まで描いているような気がします。それは「かさじぞう」でも同じですね。
積もっている雪のほう(1枚目の画像)は、よ平が、町へ布を売りにいって、その布の白さの輝きを見落とさなかった、裕福そうな老人に呼びとめられる場面に描かれています。雪がやんで、日に照らされると、目にいたいほどその白さが輝きますが、この場面の雪はまるで、娘が織った布を象徴するように目に飛び込んでくる白い雪ですね。
そして、本性をみられた以上、去っていかざるえませんでしたが、何か大事なものをよ平のこころに残したのでしょうね。最後の連続2場面では、よ平や子どもがいる灰色の空はたしかにまだ寒そうですが、明らかにその灰色は赤みを帯び、鶴の飛び去る山並みの雪は、「春ちかい」穏やかさを感じることができます。(それは布を売って、足取り軽く帰ってくる場面の、山々の雪や空と比較するとよく分かります)
(2)娘(つるにょうぼう)
この絵本は、雪深い山里のはなしですから、「赤い」色がほとんど使われていません。けれども、娘の垂髪の元結のただ一点にだけ、ピンクがかった赤が描かれています。(実はもうひとつありますが、そこが最大のみどころ)それは、はたを織るシルエット場面(2枚目の画像)でさえ、描かれています。それが何を象徴しているかは、すぐおわかりですね。最初の吹雪場面の、灰色と白の世界でもこのピンクは印象的です。
《娘の姿態と変化》
よ平は、娘を「見れば見るほど品よく、美しいおなご」だと思い、気づきませんが、その首から下のずんぐりした体型や手のか細さと、髪の元結によって、子どもにも「ひょっとしたら」鶴が変身してのではと疑わせます。
それに、布地を織るたびに、娘はやつれ、そのかげが深くなります。よ平の心の変化を憂えているのです。
(3)布
布はきわめて高価なものでした。とりわけ白く輝くような白妙の布へのあこがれは大変なものだったことが、この昔話からは伝わってきます。白ー鶴ー雪からの連想からこのような昔話が想像されたのだろうし、真っ白な布はこの世のものとは思えなかったに違いありません。そういった神秘的な白い布が、同じく神秘的で、崇高な存在であった「鶴」の羽から出来るかもしれないと想像することは、無理からぬことだったと思います。
(4)障子のシルエット
けしてのぞくなと言われると、見たくなるのが普通です。それにあんなにも美しい布地をどうやって織るのか不思議です。それは読者も同じです。それに読者は「ひょっとしたら」と思っている訳ですからね。そこで、この絵本では、シルエット4場面で、どのように織っているかを想像させる工夫をしています。さらにこの絵本は、「つるにょうぼう」がどんなお話かまだ分からない表紙のところで、それとなく、娘が布を織るところをはっきり描いています。この表紙は、読者には残像となっているはずで、シルエット(2枚目の画像)を見るたびに、表紙の残像とシルエットに見える羽の飛び散り方などによって、いかにそれが苦痛を伴うかを想像することができます。多くの絵本が涙を流しなら織っている姿を絵にしてますが、苦しみと痛々しさと娘の心情は、想像によるその姿のほうが、はるかに私たちのこころに伝わってきます。
〈・〉文章について
私のHPの、他の昔話解説では、昔話再話の文体は原話に忠実で、その仕方は昔話ならではの語法がある(それは昔話が耳から聞く文芸であるところからきます)と、何回も書いています。その意味はあくまでも、昔話(絵本ではない)そのものの語り方について言っています。昔話を「昔話絵本」にする場合にも、原則は変わらないと思います。しかし、細部の表現について、昔話絵本は文学に近づく場合もあります。ここが昔話絵本のもっともむつかしいところですが、ほとんどの昔話絵本がこの微妙な点において、失敗してしています。文章は創作文学に近くなり、一人歩きし(文が絵と関係なく独立し)、絵はそれに無頓着に表現されたり、文の説明に終わっているのが現状です。あるいはアニメ昔話絵本に見られるように、どちらもでたらめとなっています。
この絵本では、文章だけを取り出すと、昔話の語法を逸脱し、文学になっているカ所があちこちにあります。たとえば、
『よ平の見たものは、人間ではありませんでした。一羽の鶴が、血にまみれ、じぶんの羽をくちばしでひきぬいては、はたにかけているのでした』という表現は、昔話ではしないと思います。
ところが、この絵本では、その文とともに、(ここが絵本として最高峰になっているすごいところです)シルエットの障子を開けた小さな隙間に、鶴の「あ」という(まるで鶴の一声を発している)姿がかいま見られる絵があるのです。
このシルエットと隙間からみる鶴の姿を表現するために、前の3場面のシルエット表現があったのですね。
この場面は、文章表現からくる読者(私だけか?)の想像をはるかに超えています。下手をすると、残酷にさえイメージされかねない場面を崇高な表現にまで高めています。
こうしてみると、この本は「昔話絵本」の究極のところにある絵本であることが分かります。そして昔話でも、文学でも得られない、絵本にしかできない世界を表現していると私には思えるのです。
また、文章表現が、かぎりなく文学に近くなっているところから、この絵本は、絵本から童話へのステップ=橋渡しの本・童話への入り口の本としてももっとも優れたものとなっています。そしてその内容を、ここまで高められた子どもたちが、次ぎに呼び込んでくる「童話」の質は、この絵本が踏み台になるのですから、さらに想像力が駆使されたものとなるのは当然のことなのではないでしょうか。



内容紹介です

『雪ふかい山里のはなしです。
 よ平という、まずしいひとり暮らしの若者がありました。
 冬のはじめのある日、よ平が、雪の中を用足しにでて、帰りをいそいでいますと、ふいにばさばさという音がして、どこからか、一羽の鶴がまいおりてきました。
 見れば、つばさに矢をうけて、くるしそうにしています。
 よ平は近づいていって、矢をひきぬき、ていねいに介抱してやりました』
その夜遅く、美しい娘がやってきて、「女房にしてくださいまし」と、たえいるような、あえかな声でいいました。よ平はそっと手をさしのべ、娘を中へ引き入れました。
よ平の家は見違えるように、明るく、暖かくなりました。けれども、冬のこと、稼ぎもなく、蓄えはみるみる底をつきました。
すると、娘はいいました。
「おなごははたを織るもの。私にも…」といいました。
はたのしたくができると、
さかいの障子をたて、
『わたしが織っているうちは、けしてのぞき見なさいませんように』とくれぐれも頼みました。
娘は三日三晩、飲まず食わず織って、ようやく一反の織物を差し出しました。
よ平は町へでかけてゆき、織物はたいそういい値がつきました。
二人はそのお金で、しばらくは楽しく過ごしました。

町で織物を売るよ平

けれども、冬は、まだ続きます。
「もう一度だけ、はたを織りましょう。でももう、これっきりにしてくださいまし」

はたを織る嫁

今度は四日四晩かかりました。
娘は前よりもっとやつれ、いたいたしいふぜいでしたが、
布地はさらに美しく、やわらかく、ほのかなかがややきを帯びてさえ見えました。
ある日、となりの男がやってきて、
「そんな不思議な布なら、都のお大尽のところへもってゆけば、百倍にも売れる。わしが口利きしよう。もうけは山分け。一生、左うちわよ」
よ平の目に、山吹いろの大判小判が、ちらつき始めました。
そんなよ平を見かねて、
「二度と再び織れませんけれど」と、
とうとう娘はうなずき、けしてのぞかぬよう念を押しました。
よ平はもみ手をしながら、待ちましたが、もう五日目です。
はたを織るたびに、やつれていくのを思いだしました。
「どうして、糸もないのにあんな美しいものが仕上がるのだろう」
待ち遠しさとのぞき見たさが、いっしょになって、よ平はついに障子に手をかけました。







読み聞かせのポイント
表紙と裏表紙は繋がっていますから、両開きにして、しっかり見せてあげてください。表紙絵の印象が、あとでこの絵本の理解を大きく左右します。あとはなんの工夫もいりません。ゆっくりたんたんと読んであげましょう。

絵本 つるにょうぼう
◆年齢◆
読み聞かせは6才以上
自分で読む場合は小学生低学年向き

◆ジャンル◆
◆むかしばなし絵本

◆シチュエーション◆
◆おやすみの前に絵本


矢川澄子 再話 赤羽末吉 絵 福音館書店

初版年月日:1979年10月25日 ISBNコード:4-8340-0757-X

32ページ 26X25cm 定価1260円(本体1200円+税60円)


通常版はこちら!  定価1260円(本体1200円+税60円)

「えほんおじさんセット」はこちら!  セット価格1460円(税込)

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再話者矢川澄子さん関連図書
翻訳書
「おばけリンゴ」 ヤーノシュ 文・絵
「長ぐつをはいたねこ」 ハンス・フィッシャー 文・絵
「むぎばたけ」 アリスン・アトリー 文   片山健 絵
「ハイジ」 ヨハンナ・シュピーリ 作  パウル・ハイ 画
「若草物語」 ルイザ・メイ・オールコット 作  ターシャ・チューダー 画
◎画家赤羽末吉さん関連図書
「かさじぞう」再話 瀬田貞二
「かちかちやま」  再話 小澤俊夫
「うまかたやまんば」再話 小澤俊夫
「したきりすずめ」  再話 石井桃子
「おおきな おおきな おいも」 原案 市村久子
「スーホの白い馬」 再話 大塚勇三

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